メゾンドボーテの取材を通して気づいたこと、それは、「売れている人には読書家が多い」という事実! みんなどんな本を読んでいるのか改めて知りたいということで始まったボーテ読書シリーズ、第2弾に登場するのはさゆさん。
看護学校と夜職を両立していたさゆさんに、愛読書の中から4冊をご紹介して頂きました♡
〜今日の本棚〜
・夏目漱石『こころ』
・山田詠美『晩年の子供』
・チャールズ・M・シュルツ『チャーリー・ブラウンなぜなんだい?―ともだちがおもい病気になったとき―』
・齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』
名作から絵本、ノンフィクションまで4冊ご持参いただきましたが、このセレクトには何かテーマが?
「心を強く揺さぶられた本」で選んできました。「泣ける」みたいな感動とはまた違うんですけど、読んでいるときも読んだあともずっと考え続けてしまうような…。読み終わったあと余韻がだいぶ残るもの。大人になった今だからこそ読むべき本を。
読後感としてはちょっと重めな?
そうですね。死生観について考えさせられたりするものもあるから、わりと重めかもしれない。エンタメ的な面白さではないから、万人に対して「めっちゃおすすめ!」というわけではないけど、でも、考えた時間も含めて「この本と出会えてよかったな」と思えるような。そんな本を持ってきました。
1冊目は夏目漱石の『こころ』。
『こころ』は高校の現代文の教科書で出会いました。小説のなかの『下・先生と遺書』の後半部分が抜粋されていて。この話は何を伝えたいのだろうと思って、改めて小説のほうも読んでみたのが最初です。
教科書で読んだことがある人だったら、先生の遺書の中に出てくる“K”の存在が印象深く残ってると思うんですけど、小説全体を通して読むと全然違う物語が見えてくる。そこが面白いなと。その後、大人になってからも読み返してみると、また違った印象を受けましたね。
初めて高校生の頃に読んだ印象だと?
主要な登場人物は語り手の「私」と「先生」、先生の親友の「K」、のちに先生の妻となる「お嬢さん」の4人。そのうちKと先生は自殺してしまうんですけど…。最初に読んだときは率直に「なんで死んじゃうんだろう」でしたね。特に先生に対して。せっかく自分の好きな人と結ばれて一緒に暮らしてるのに、なんでずっと思い詰めてるのだろう。もうずっと昔に亡くなった親友のことを想ってなんで今更死ぬんだろうって。子供だったので単純に「なんで?」っていう気持ちが強かったです。
大人になって改めて読んだときに、これは誰もが心に隠し持っている“エゴイズム”についての話だなって感じました。時代背景が違うので現代の価値観では理解できない部分も多々あるんですけど、根底にあるのは良心とエゴ、後悔や罪悪感、そういった人の心の深淵なのかなって。
「先生」はある意味Kを出し抜いて今の奥さんと結ばれていて、そのことに対する罪の意識と罪悪感に苛まれながら生きている。自分がしたことを償いたくても、Kは死んでしまってもういない。誰にも許されず重荷を背負い続けて生きるのはとても苦しいことですよね。
こう言ったらなんですけど、『こころ』って教科書に載ってる「遺書」の部分だけ読むと、なんのこっちゃわからんってなりますよね。
そうなんですよ! むしろそこは先生の秘密が解き明かされる部分なので。ミステリー小説でいったらネタバレ部分から先に読むみたいな(笑)。
「先生」は人とほとんど交わることなく、奥さんとひっそり暮らしていて、語り手の「私」は、そんな先生の心に近づこうとするんですけど、先生は謎めいたことを言うだけでなかなか心を見せてくれない。先生はなぜそういう生き方をするに至ったのか、抱えている秘密は何なのか、すべての謎が解けるのが「遺書」のパートなんです。
なので、教科書を読んで「わけわかんない話だな」って思った人にこそ、『こころ』はおすすめしたい。「そうだったのか!」っていうカタルシスがきっとあるので。
2冊目は山田詠美さんの短編集『晩年の子供』。
この本も出会いは教科書がきっかけでしたね。この中の『ひよこの眼』というお話が現代文の教科書に載っていたので。確か高3だったかな。短編なので抜粋ではなくそのまままるっと。テストにも出たの覚えてます(笑)。
『ひよこの眼』は何度読んでも胸がギュッとなっちゃいますね。中学3年生の女の子が主人公で、転校生の男の子の目を見たらなぜか懐かしさに包まれる。その懐かしさの正体を知りたくて、女の子は無意識にその男の子の目を見つめ続けるようになって、やがてそれが恋心に変わっていくんですけど。
あらすじだけ聞くと中学時代の淡い恋の話かのようですが…。
そうなんですけどそれだけじゃない(笑)。このお話は予備知識なしで読んだほうが絶対にいいのであまり多くは語れないんですけど、『ひよこの眼』っていうタイトルにも意味があって、その意味がわかるとそこからまさかの展開に! 人生の理不尽さや不条理さ、それに対しての無力感、諦念…。でもこれが現実なのかなとか、読むたびにいろいろ考えてしまいます。
『晩年の子供』には8つのお話が収められているんですけど、どの物語も主人公はすべて子供。子供の目から見た世界が描写されていて。全編を通して生と死がモチーフのひとつになっているので、一冊を通して物憂げな雰囲気というか。
子供の頃って無邪気なだけではなかったじゃないですか。大人だったら気にもしない些細なことで絶望したり死ぬほど悩んだり、突然心細くなったり。表現する手段を持たないだけで、きっと大人よりもずっと感性も想像力も豊かで、いろんなことを感じとっているのが子供だったりする。
『晩年の子供』はそういう子供時代の“あの感情”が蘇る本。今も時々読み返すんですけど、そのたびに儚いようななんともいえない余韻が残る。それは寂しい気持ちに似ているんだけど、どこかに幸福感もまじっていて…。何度読み返してもやっぱり切ないような懐かしいノスタルジックな気持ちになるんですよね。
お次はみんな大好きスヌーピー♪
この絵本、大人になってから出会ったんですけど、もともとは妹がアニメで見せてくれたのがきっかけで、物語自体は昔から知ってて。ほんとにすごくいい話なんです。何度読んでもウルっときちゃう。
中身はタイトル通りのストーリー。仲良しのジャニスが血液のガンになってしまって、それをめぐるスヌーピーと仲間たちのお話なんですけど。もともとは小児ガンになった子供たちを支えるお話を作って欲しいというお願いから生まれた絵本で、病気になった子とその家族、友達に向けて描かれているんです。ガンはどういう病気でどんな治療をするのかっていうところから、子供たちが抱きがちな病気に対しての誤解や偏見まで描かれる。
ガンがうつると思っている子がいたり、化学療法で髪が抜けちゃったジャニスをからかう男の子がいたり、子供の素直さ故の残酷な場面も出てくるんですけど、でもそれは病気のことをよく知らなかったり善悪の区別がついていないから。「そうじゃないんだよ」ってことをライナスが1人1人教えていくんです。
ざっと今読みましたが、病気になった子のきょうだいの心境までしっかり描かれているんですね。
そこも素晴らしいと思って。家族のなかに重い病気を患っている子がいれば、両親の気持ちや配慮はどうしてもそちらに偏ってしまうから、他のきょうだいたちは不自由さを感じたり寂しい思いをしていたりもする。そういった心情もすくいあげてくれてます。
にしてもライナスめっちゃいいやつ!
そう、ライナスが天使! 病気のジャニスの心に寄り添って支えてくれる存在なんです。ジャニスをからかう男の子にも「自分がガンになって笑われたらどんな気持ちになるか考えてみなよ」って怒ってくれる。この物語のなかでライナスは、「何もできなかったとしても心に寄り添うことはできるし、その痛みやつらさを想像したり共感することはできる」、そういうことを身をもって教えてくれる存在なんです。
これは最近読んだ中でおすすめの本です。友だちに勧められて貸してもらったんですけど、読み出したら止まらなくなって1日で読んじゃいました。
医学部進学を強要されて9浪したり、成績が悪いと鉄パイプで殴られたり、長年に渡って母親から凄まじい教育虐待を受けた末に、とうとうお母さんを殺しちゃったっていう。
正直信じられないような話でした。「逃げ出せばいいじゃん」とか、「そんな親、縁切っちゃえばいいじゃん」って思う人も多いだろうし、私も思ったんですけど。でも、生まれ育った環境しか知らなかったら、自分の世界はそこしかないから、そんな単純な話じゃないんですよね。
特にこのケースの場合、母親と娘だけの閉じた関係性の中で生活すべてを支配されて生きてきてるから、外の世界との接点が少ない。他の世界を知らないから考え方に限界があってそこに不幸がある。この、「その世界しか知らないことの不幸」っていうものは、『こころ』にも、『ひよこの眼』にも感じるところなんですけど。
その世界しか知らない=逃げ場がない。この娘さんも何度も抵抗を試みてるけど、結局は元の環境に戻らざるを得なくなってさらに無力感を募らせていく。
そう、家出したり何度も頑張って抵抗するけど、やっぱり植えつけられちゃってる部分が強くて。そうやって自分の人生を生きることを徹底的に潰されていく…。『親ガチャ』って言葉があるじゃないですか。私はあまり好きじゃない言葉だけど、生まれ育った環境によってどうにも逃げられないことってあるんだなと、思い直すきっかけになりました。
私は大学中退しちゃったから、自分に子供がいたら「勉強はちゃんとしといたほうがいいよ」って、そういう教育をしたいなと思っていたけど、それも一歩間違えると教育ではなく押し付けになってしまう。自分でも気づかないうちにこの事件のお母さん側になっちゃう可能性もある。
そういう意識を持っておくことは大事なことかと。
子供は自分のものではないし、親子とはいえ他人じゃないですか。別の人生を生きる独立した一個人としてちゃんと認める。そういう向き合い方が大事なのかな…。家族の在り方ってなんだろうってすごく考えさせられましたね。
本の紹介は以上ですが、最後にさゆさんの読書傾向や本にまつわるあれこれも聞いていいですか?
いいですよ♡ 読書傾向としては小説が多いかなぁ。自己啓発本やビジネス書より物語が好きです。物語は違う誰かの人生を覗いているような面白さがある。自分自身とは全く違う誰かの人生を生きられるみたいな。小説に限らずですけど、読めば読むほど、考え方の数が増えるじゃないですか。読書ってそこが楽しいですよね。
さゆさんの読書スタイルは?
ソファーとかベッドで寝っ転がって読んでます(笑)。一気に読みたいから、ある程度まとまった時間が取れるときに、ゴロゴロとくつろぎながら読むのが幸せ♡
今日は紙の本を持って来てもらいましたが、普段は紙と電子どっちが多いですか?
私、どっちもなんです。気になる本はさくっと電子で買って読むし。それで気に入った本だったら紙でも買うし。紙で持ってる本でもKindleで読み返す用に電子で買ったりもする。
同じ本を紙でも電子でも! 出版界的にありがたすぎる太客ですね♡
そう考えたらそうかもw でも一番使ってるのは漫画かもしれないです。相変わらずコミックシーモアにめちゃくちゃ課金してるので。コミックシーモアの太客です(笑)。
さゆさんセレクトの「心を揺さぶられた本」、いかがだったでしょうか。昔、教科書で読んだ“あのお話”、もう一度読んでみたくなった人もいるのでは? 本を読んでプラスはあってもマイナスはなし。“ボーテの読書シリーズ”が、本との出会いの一助になれたら幸いです♡
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